問題点がゆっくりと浮かび上がる

【前回の要点】
前回お届けした内容では、Aさんが抱えていた不安の背景を、一緒にゆっくり整理していきました。
・悩みを誰にも言えず、ひとりで抱え込んでいたこと
・経営が上手くいかない原因が分からず、気持ちが沈んでいたこと
・空室や修繕の負担が積み重なって、スマホの通知が怖くなっていたこと
・本当に困っているのは「どこを見ればいいのか分からない」ことだったこと
大家さん応援隊スタッフとして相談を受けていると、
「どこが悪いのか分からないんです」
という言葉をよく聞きます。
Aさんもまさにその一人でした。声に疲れがにじんでいて、長く抱えていた違和感をようやく口にできたような響きでした。
最初にお聞きしたのは、空室が続いていること。
家賃収入が下がっていく不安の裏には、修繕費が思いのほか膨らんでいる事も潜んでいました。
ただ、それらを一つひとつ確かめていくうちに、Aさんの悩みはもっと根っこの方にあるように感じられたのです。
「何が原因なのか、整理ができていないのかもしれません」
ぽつりと言ったその言葉が、とても本質を突いていました。
私たちの経験則から、
うまくいかない大家さんの多くは “判断材料が散らばったまま” になっています。
Aさんの様子と重なるところがいくつもありました。
電話の向こうで、Aさんはその都度記憶を探りながら話してくれました。
物件の写真は数年前のまま、家賃設定も深く見直していなかったそうです。
修繕も必要に迫られて決めていたようで、全体を俯瞰する余裕がなかったといいます。
話を聞きながら、私はメモの端に小さく丸をつけていきました。
収益、募集、修繕。
大きく分けると三つ浮かび上がってきます。
収益の面では、空室期間の長期化がボディーブローのように効いていました。
家賃が入らない期間は、思っている以上に精神的な負担が大きいものです。
Aさんも「家賃の入金日が近づくたびに落ち着かない」と漏らしていました。
募集については、物件の見せ方がそのまま結果につながっていました。
部屋の雰囲気が暗い写真、新築当初から使っている古い図面、
これだけ上げても入居者の心をつかめません。
これは悪意があるわけではなく、忙しさの中で優先順位が後回しになったただけです。
修繕費の項目を見ていくと、緊急と判断したものの中に、実は急がなくてもよい作業が混ざっていたり、
振り返ってみて初めて「ここまで出費が重なっていたのか」と気づくケースはよくあることなんです。

こうして課題を一つひとつ一緒に棚卸ししていくと、Aさんは少しずつですが安心したようです。
落ち込んだわけではなく、むしろご本人の頭の中が整理されていく感覚に近いものだったと思います。
「何となく不安だった部分が、形になってきた気がします」
この一言には、長い間まとわりついていた霧のような不安が少し晴れたようです。
“課題”が見えるというのは、それだけで大きな前進です。
他の相談者も同じようなことを話していましたが、
「人は正体の分からないものに最も不安を覚える」ので、
問題点の輪郭がつかめた瞬間から心の置き場所が変わってきます。
Aさんがもう一つ言っていたことがあります。
「自分がこんなに整理できていなかったとは、まったく考えてもいませんでした」
その声には少しだけ照れが混ざっており、私も安堵しました。
整理とは、できていないから悪いのではなく、誰かと一緒にやることでようやく動き出すものです。
その後、Aさんの声にあった緊張が少し柔らかくなったのを感じました。
この続きは、またブログで紹介していきますね。
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